若い頃の僕は、髪型に一切悩んでなかった。
「このモデルの髪型カッコいいっすね!」って雑誌をペラッと見せれば、それでOK。
美容師さんも「了解です~」って流れるようにハサミを走らせる。
そんな無敵の時代が…ありました。そう、“過去形”で。
30代の途中あたりから、なんか前髪のボリュームが「おっ?」って感じに減ってきて、
いつの間にか立派なM字シルエットが完成。
いやほんと、名前つけてあげたいくらいキレイなM字なんよ。
「もうちょい右に寄ってもらえますか〜」って美容師さんに言われたとき、
僕じゃなくて“このM字”が映りやすい位置を要求されたのかと思ったからね。幻聴だけど。
で、最大の難関がアレですわ。
毎回、美容室で言われるあの一言。

今日はどんな感じにしますか~?
これ。
M字ホルダーにとっては、もう最初からラスボス戦。
「え…どんな感じって……」
心の中ではもはやスローモーション。
“グーパンチをスローで受け止める主人公”みたいな脳内演出がはじまる。
しかもそれが、若くておしゃれな女性美容師さんだったりしたら、
その時点で精神的ノックアウト。
焦りで背中から汗がつーっと流れて、
あのマント(←あれ何て名前?)がラップ並みに密着してくるの。
ほんとは言いたいんですよ。
「どうしたら、M字がバレずに、それっぽく見えるか教えてください…!」
って。
でも言えなくて。
毎回

「いつも通りで…」
って、わけのわからん逃げ方をしてた。
そして髪を切る。
鏡を見る。
なんか違う。
落ち着かない。
家に帰ってから自分でいじって、
最終的に帽子かぶって出かける。
…という黄金ループ。
でもね、最近ちょっとだけ変われたんです。
いつものようにあの質問が来て、
汗をたっぷり流しながらだけども、
勇気を出して…こう言った。

えっと・・・・・M字が目立たない僕が似合うやつで・・・・・
美容師さん、ちょっと驚いた顔してたけど、
すぐに「かしこまりました!じゃあ、こんな感じにしてみましょうか?」って優しく提案してくれて。
できあがった髪型は、なんてことない短髪だったけど、
今まででいちばん“僕のこと、ちゃんと見てくれた”感じがしたんだよね。
というわけで、M字に悩む同志たちへ。
最初の一歩、めちゃくちゃ怖いけど、
勇気出してみると案外世界は優しい。
あと、美容師さんって、思ってるより頼れるぞ。
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